サステナビリティ SDGs以後の最重要生存戦略
~サステナビリティを儲かるようにする~
当機構がCSV事業の新たな領域の拡張と提案・社会発信を促す場として定期開催する『CSVセッション』。
第2回となる今回は、当機構副理事長の書籍出版記念を兼ねたオープンセッションとして「企業価値と社会価値をいかに両立するか」をテーマに、久しぶりの対面形式で、シンポジウムとして開催しました。
サステナビリティ経営に先駆的に取り組まれている企業および組織による方々にご登壇いただき、CSVをどう実現するか、お話しいただきました。
参加者の質疑応答も受けながら対話を重ねました。
基調講演1
「パーパス経営 ~新SDGsの実践に向けて 」
京都先端科学大学教授 兼 一橋大学ビジネススクール客員教授 名和 高司 様
資本主義(CapitalismCapitalism)から
志本主義(PurposismPurposism)へ
SDGsは2030年に向けて実行すべきもので、30年先を考えると、意味が変わり「新SDGs」となるのではないかと考えている。
Sはサステナビリティということは変わらないが自由演技として「18枚目のカード」が必要になるのではないか。
Dはデジタルとし、デジタルを使ってどう変革をするかが鍵となる。
Gはグローバルズと読み替え、グローバルが一旦コロナや紛争で分断されそれをもう一回繋ぎ合わせるという意味で、グローバルズという複数形にした。
SとDとGの真ん中にあるのが「志=パーパス」。
これを起点にSとDとGを2050年に向けて回していくのが新SDGsである。
サステナビリティはもう当たり前で企業にとっては「既定演技」。今、それを超えた「自由演技」としてのパーパス経営が求められている。それをしない会社にはお金が回ってこなくなる。
パーパス経営が本当にプロフィットにつながるのかと聞かれることも多いが、特に人件費は大きく下がると言われている。
社員一人ひとりがパーパスに誇りを持てば、誰が見ていなくても正しいことしかしないという社員の集まりとなり、生産性は2倍、3倍と伸びていく。
日本ではそうなっていない企業がまだまだ多いがそれは伸びしろがあるともいえる。
遠近複眼経営を目指す ~30年後の長期的なビジョンが重要
いまの30~40代はKPIを追い過ぎてパーパスを意識できないでいる。この世代の心に火がつくと、生産性は一気にあがる。
社会にとってどういう会社になりたいか、未来の子どもたちにどんな未来を作りたいか、これをあらゆる制約をとってなりたい姿を考えてほしい。3年後は時流で変化するから努力しても予測通りにすることはとても難しい。
しかし、30年後は自分たちで作ることができる。そこにパーパスを置いてほしい。特に、私が大切にしてほしいと思うのは「わくわく」「ならでは」「できる」というパーパス。
ただし、プリンシプル(行動原理)を徹底していないと、パーパスという遠くばかり見て実行しない残念な会社になってしまうことを忘れてはならない。
時間がないことを言い訳にしているといつまでも達成できない。いろいろなルーティンワークを断捨離し、無駄を省いていくとやれる時間が出てくる。
そうすれば絶対に変革できる。
現状維持が好きな人が多いが、パーパスで素敵な自分を見ていると「そこに向かって自分が変わりたい」という変身願望が生まれてくる。
それがパーパスの一番大事な目的なのだ。
基調講演2
「SDGsという事業機会をどう捉えるか」
(一社)グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事 有馬 利男 様
グローバリゼーションの「光と陰」
国連によると、日本のSDGsは2017年は世界で11位の進捗度だった。しかしながら、2023年になると21位に転落している。ここを何とか立て直す必要がある。
1989年、冷戦が終わったことで、グローバリゼーションが勢いよく発達し世界の産業経済が大きく進展したが、その裏で大量の自然破壊や労働問題、人権問題が出てきた。そこに、1999年、コフィー・アナン氏が世界経済フォーラムに乗り込み、経営者に対して「国連と手を結び、状況を改善しよう」と提案した。それに賛同する企業やNGO、アカデミア、国連等々が集まって2000年にできたのが国連グローバルコンパクトである。
その国連グローバルコンパクトとGRI、そしてWBCSDが連携して作ったのがSDGsコンパスという、SDGsを経営に統合するためのガイドブックである。これにSDGsを経営統合するための以下5つのステップが示されている。
- SDGsを理解する
- 優先課題を決定する
- 目標を設定する
- 経営へ統合する
- 報告とコミュニケーションを行う
調査によると2016年は53%がステップ1で、ステップ5は4%しかいなかった。21年になると、ステップ1は11%のみで、ステップ4、ステップ5を足すと60%近いところまで進んでいる。
社会が求めるものを捉え
社員が一丸となればイノベーションは起こる
ここで私が社長を務めていた富士ゼロックスの時代の経験について話したい。中国に工場進出をしたところ、さまざまな人権問題とか労働問題が出てきた。
それに対して能力開発やサプライヤーエンゲージメントの活動を展開し改善を図った。その結果従業員の能力とモチベーションが上がり、生産性が向上、退職率が低くなるといった効果があった。
また日本国内でリサイクルを始めた際には新品以上に手間とコストがかかるため、社内で反対意見も多かった。しかしトップは「社会に求められるからやろう」とぶれなかった。実際に、初めは大赤字となったが、リサイクル部隊にエース級の人材を配置し、資金も惜しまず会社全体で応援する姿勢をみせた。
そこから、良い取り組みとしてメディアにも取り上げられ、リサイクル部隊のモチベーションもあがり、社員が自ら工夫しながらリサイクルに取り組むようになった。そういった経緯で、8年がかりではあったが黒字化することができた。
このように経済性、人間性、社会性で統合的に企業の質を上げなければいけない。3つは矛盾する要求を持っているが、それを乗り越え社員全員の意思が固まってくれば自然とイノベーションが起きることを、身をもって経験した。
社会全体のニーズに応えることで、結果として長期的には、より儲かる経営になるかもしれない。
パネルディスカッション
「コラボレーションでCSVをどう実現するか」
気候変動などの危機が差し迫る中、収益性も求められる企業がどう対応すべきか、1社単独では難しい側面もあるビジネスを通じた社会課題解決について、様々なプレーヤーとのコラボレーションなどでどう対応していくか。
先進的な取り組みを行う4名のサステナビリティ・リーダーの方々にご登壇いただき、ファシリテーションを当機構、副理事長の水上武彦が務めました。
はじめに各登壇者のサステナビリティに関連する取組や、方針についてご説明をいただいた後、ディスカッションを行いました。
稲継 明宏 様 (株式会社ブリヂストン グローバルサステナビリティ統括部門 統括部門長)
「2050年 サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」と掲げ、タイヤのリサイクルやすり減った部分のみ修復するといったサービスを提供することで、資源の利用量の削減やCO2排出量の削減への取組についてご紹介いただきました。
嘉納 未來 様 (ネスレ日本株式会社 執行役員 コーポレートアフェアーズ 統括部長)
食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めることを目指し、消費者だけでなくバリューチェーンに関わるすべての人が経済的にも社会的にも幸せであるための取り組みについてご紹介いただきました。
出本 哲様 (株式会社Gaia Vision 共同創業者)
自然の原理としてCO2を出し続ける限りにおいて温度上昇は止められないため、災害のリスクを少しでも軽減するためのリスク分析のプラットフォームを開発。世界どの地点でも住所等を入力することで気候変動の分析が可能な本システムについて、紹介いただきました。
(Gaia Visionの気候変動・洪水リスク分析プラットフォームClimate Visionの無償公開版はこちら)
東梅 貞義様 (公益財団法人 世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン) 事務局長
世界100カ国以上で活動している国際的な環境保全団体であり、世界経済フォーラムダボス会議にてグローバルリスク報告書を提出しているそうです。企業のサステナビリティを高め自然を守り、自然を回復させることを目指して行う様々な活動についてご紹介くださいました。
水上「長期的なものや儲からないものなどさまざまなCSVがあるなか、皆さんの会社では、その判断基準をどのように考えていますか。」
稲継氏「リサイクルを事業として成り立たせようとするとコストがかかり、それだけでは企業として成り立ちません。今生み出しているキャッシュをいかに持続させていくのか、それを原資として将来の種まきをするのか、ポートフォリオ的に見ることが重要です。」
水上「ネスレではどういう判断基準で多大なリソースをかけられているのでしょうか。」
嘉納氏「コーヒーの産地は気候変動により2050年に50%減少すると言われています。それはコーヒーの生産者の生活に関わりますし、私たちの事業も展開できなくなってくる。私たちが影響を与える分野と、事業に影響を及ぼす分野というのが一つ大きな基準になります。」
水上「パーパスを浸透させるために工夫していることはありますか。」
嘉納氏「全社員が、顧客を取り巻く問題は何かを考え、その解決策を実証して応募するアワードを10年以上続けています。そのなかで社員にパーパスを意識させています。」
水上「サステナビリティを推進するスタートアップ企業を増やしていくためにもっとも必要なことは何だとお考えでしょうか。」
出本氏「取り組みに前向きな会社とそうでない会社の差がかなり大きいと感じます。前段の名和先生の講演でもありましたように、なるべく決済までの無駄を省いていくことや、不確実性を許容していくような意識改革が必要だと感じます。」
水上「長期で考えたときにスタートアップがその長い時間耐えるために何が必要でしょうか。」
出本氏「当然ながら目先でマネタイズできるものを作るということは非常に重要だと思っています。そのうえでビジョンを目指していくというバランスが大切です。」
水上「NGOの立場から、企業のNGOの使い方について何かご意見はありますか。」
東梅氏「問題点とその解決策を伝える。これがNGOとしてすごく大事な役割だと思っています。一方、バリューを考えるとソリューションと協働が必要になってくる。例えばコーヒーの木をどこに植えるかを考えたときに、生き物にとって大事な場所や法律上守るべき場所などはWFというNGOで、地図やデータを持っています。それが提供できる価値の一つだと思っています。」
出本氏「東梅さんにお聞きしたいのですが、NGOの役割として大企業の方への情報提供など知見への期待は高まっているのではと思いますがいかがですか。」
東梅氏「日本では共通理解となっていることも、グローバル的にはもう一歩踏み込んで目標を積み上げて説明してほしいという要求があり、ここに企業のニーズがありそうだと感じています。」
稲継氏「嘉納さんにお伺いしたいのですがバリューをどう定量化・可視化していますか。」
嘉納氏「農場の土壌や収入の状況などをレインフォレストアライアンスに監査してもらい、その結果、進捗が悪かった場合もレポーティングをしています。そうすることで外部から解決策の提案もあるんじゃないかと気づき、良いことも悪いことも伝えていく重要性を感じています。」
出本氏「ブリジストンはかなり前からソリューション化を謳い、気づいたらサステナビリティで言っていたことが統合されていますが社内でどう連携してものを進められているのでしょうか。」
稲継氏「サステナビリティに取り組むその潜在的なところで競争優位やビジネスにつながっていくことを、経営の方にわかりやすく伝えるようにしています。例えば顧客に対して営業部隊が積極的にアピールできますよ、などうまく変換することが重要かと思います。」
※当日の様子は、以下の動画からもご覧になれます。